蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

ジーンズを買いに

12月初旬。

手術以来初めて体重計に乗った。手術前と比較して6kgも減っていたので驚いた。胸板が薄くなっている。うっすらとあばら骨も見える。しかし、お腹はぽっこりと出ている。開腹手術で腹筋が弱くなっているせいだろう。ギリシャ彫刻のような私の肉体はどこに行ったのだろう。なんて、そんなものはどこにも無かったのだが。

 

手持ちのジーンズやチノパンを履いてみたが全滅だった。きつくてボタンが、ジッパーが閉じられない。お腹がぽっこりと出ているうえに、私のお腹にはストーマ人工肛門)の袋がついているのだ。早く大き目のジーンズを手に入れなくては、開きっぱなしのジッパーで徘徊する危ない人になってしまう。

 

私のストーマはあくまで切除・縫合した大腸が治癒するまでの暫定的なものであり、3か月程度で閉鎖する予定だ。今回ジーンズを買うにしても使用期間は限定されている。だから近くの大型スーパーマーケットで一番安いものを買う事にした。一本15ユーロ、日本円にして2000円程度だ。

 

試着の結果、今までよりも2インチ大きい腰回りのものにした。そしてサスペンダーも購入した。ベルトがちょうどストーマを圧迫して具合が悪いからだ。帰宅して新しいジーンズとサスペンダーを身に着け鏡を見た。そこには珍妙な恰好の男が居た。

 

ファッション音痴の私が一つだけ気を付けていたことがある。それは適切なサイズのものを着るという事だ。2インチ大き目のジーンズはすなわちオーバーサイズであり、ダサく見えても、それはしょうがない事なのだ。

 

それでも、まあいいや、と思う。

抗がん剤の副作用で坊主頭になった時もそう思った。髪の毛が抜ける事で、ダサいジーンズを履く事で、私は何を失うと言うのか。

 

だから、私は今日も大き目のジーンズをサスペンダーで吊り、颯爽と散歩に出るのだ。