蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

お尻のX

8月中旬に隣町の病院へ転院となった。そこで放射線・化学治療が行われるのだ。

 

チーフ・ドクターであるK医師から、治療内容とスケジュールについての説明がある。治療開始は8月下旬からだと言う。つまり検査入院から数えて約一か月、これと言った進展が無いという事になる。

 

「遅いですね」と、ついこぼしてしまう。不満の響きが滲む。これでも最速の対応なのだとK医師は言う。それはそうだ。私は長い患者リストの中の一人に過ぎない。治療を待っている人は他にも沢山いるのだ。とはいえ、時間を無駄に費やしているという焦りは消えない。

 

治療の前準備のためにシミュレーション室に行くよう指示された。放射線照射のプログラムを組むのだ。そこには女性技師が二人居た。更衣室でズボンを脱ぎ、検査台にうつぶせになる。そしてパンツを下げるよう指示された。

 

真の男ならば、パンツくらい表情の一つも変えず豪快に脱ぎ捨てるものだ。三船敏郎ならば、きっとそうしただろう。しかし、小心な私はお尻を半分出すにとどめた。すると女性技師は「もう少し下げますね」と言って、私のパンツをむんずと引きずり下ろした。

 

それから技師たちは、私のお尻にステッカーをいくつか貼っていった。強力な粘着力でシャワーを浴びても剥がれませんから、と技師から説明があった。そのステッカーにはX印が描いてあり、私のお尻はまるで射撃の的のようになった。これを目印に放射線を照射するらしい。

 

お尻のX。少なくとも、これでようやく治療のスタートラインに立ったのだ。