蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

術後の治療を巡って(2)

術後の治療を巡って(1)の続き

 

その日はシンチグラム検査日だった。ある書類を提出する必要があり、検査の前に腫瘍科に寄るとG医師が見えた。昨日のK医師と私の話し合いにも同席していた若い医者だ。彼は診察の前なのか慌ただしく書類をめくっていたが、私を見るとちょうど良かったと言ってやってきた。

 

「昨日の話だが」と彼は続けた。「実は我々が持っていた情報に不備があった。詳しくは改めて話すが、リンパ節転移は無かった。心配させて申し訳ない」

 

話の全貌がつかめたわけでは無いが、とにかく良いニュースという事だけは分かった。私は心の中でガッツポーズを決め、シンチグラム検査に向かった。

 

検査が終わると入院棟に行くよう看護婦さんから指示を受けた。その時には妻が迎えに来ていたので、二人で入院棟に向かった。そこにはM女医が居て、開口一番「今回は大変申し訳なかった」と我々に平謝りに詫びた。聞くと、「リンパ節転移無し」というところを病理検査担当者が「転移あり」とレポートに記述してしまったとの事だった。そしてM女医もその誤記に気づかず、腫瘍科のK医師はその情報をもって抗がん剤治療が必要と判断したのだ。

 

昨日、妻が婦長の前で泣かなければ、婦長がM女医に確認することもなく、M女医がレポートを精査することもなかった。そして私は無意味な抗がん剤で無駄に体調を崩していただろう。すんでのところで医療ミスを避ける事ができたのだ。妻の大手柄だ。

 

私は今でもM女医は信頼するに足る医者だと思ってはいるが、彼女だって完璧では無い。このようなヒューマンエラーが医療ミスにつながる事例は、見えていないだけで実は沢山あるのかもしれないと思うと、やはり恐ろしくなる。今回私がそれを避けられたのは単にツイていたからなのだ。

 

さて、この騒動でシンチグラム検査の件は横に置かれた感があったが、この検査結果は数日後に出た。「問題無し」

今回の検査では癌はどこにも見つからなったという事だ。よって抗がん剤の必要も無い。次の検査は3か月後だが、それまでは心安らかに過ごせそうだ。