半分ゾンビ
治療が始まる8月下旬までは、家でごろごろと過ごした。
お尻の癌患部の痛みのせいで座ることが出来ない。真ん中に穴の開いたドーナツ状のクッションを妻が買ってきてくれた。痔を患う人のためのクッションで、それを使えば痛みが和らいだが、それでも長時間は無理だ。車の運転は不可能となった。ゆっくりと座って食事を取ることもできない。普段意識することなんてないが、座れないというのはなかなかに辛いものだ。
それで一日の大半はベッドかソファの上で横になって過ごした。寝ていれば無痛かというとそうでもない。程度の差はあれ、痛みは常にそこにある。
医者曰く、モルヒネを処方すれば痛みの問題は解決はするだろうが、薬の性格上厳密なコントロールが必要とされるので、入院患者以外には処方出来ないと言う。しかし入院はゴメンだ。鎮痛剤で我慢することにしたが、効き目は薄かった。
永続的な痛みというのは、じわじわと生きる気力を奪っていくものだなと思った。もっと過酷な痛みにさらされている人は多くいるだろう。私の、この程度の痛みで泣き言をいうべきではないのかもしれない。しかし、それが私の実感だった。
下痢も追い打ちをかける。痛みと下痢のせいで、ぐっすりと寝ることが出来なくなった。朝も夜も、覇気無くごろごろとしていた。これではまるで半分ゾンビみたいなものだな、と思った。
しかしよくよく考えれば、ゾンビの生態というのは意外とエネルギッシュである。
ポイントを挙げてみよう。
- 食欲旺盛
- 昼も夜も休みなく動き回る(それも最近の奴はアスリート並みに速い)
- 好んで外出し、他のゾンビたちと共に行動する
- 場合によってはスーパーマーケットにだって行く
横になっているだけの私よりもずっと元気で活動的ではないか。私も早くゾンビ並みに元気にならねば。半分ゾンビなどと自嘲している場合ではないのだ。