蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

術前検査(1)

2月も中旬に入った頃に、ストーマ人工肛門)閉鎖の手術があった。

無事に手術は終わり、一昨日退院したのだが、例によって入院の日々を時系列で書いていく事にする。

 

  • 入院一日目

この日は検査のみ。去年の11月に切除した直腸部位がちゃんとつながっているかどうか。もし吻合部分に漏れがあれば、手術は見送りとなる。それはレントゲン検査なのだが、その前に担当医のM女医が肛門が機能するか確認したいと言う。

 

ストーマ人工肛門)にすると使われない自然肛門は緩んでしまう。すると自然肛門に戻すと同時にダダ漏れ問題に直面することになる。それを避けるため、ストーマ期間中には肛門をキュッと締める括約筋トレーニング(これも一つの筋トレだ)が奨励される。

 

診察室でM女医は私の肛門に指を入れた。彼女にどうぞと促され、私は渾身の力でキュッと肛門を締めた。「その調子よ!もう一度!」再びキュッ。彼女はにっこりと微笑んだ。「これなら大丈夫ですよ」

 

よし。これが日々の括約筋トレの成果だ。私がぼけっとテレビでも観ていると家族の目には映っていたかもしれないが、その裏の人知れぬところで私の括約筋は静かに、キュッと、鍛えられていたのだ。

 

その次が本命のレントゲン検査だ。お尻から腸に造影剤を入れて腸の吻合部分に漏れが無いかを見る。撮影はベッドに横になったまま行われ、撮影された映像はリアルタイムで見ることが出来る。

 

撮影をしていた医者は、モニターを見ながら「腸はきちんとつながっていますね」と言ったが、しばらくして「うーん」と唸りはじめた。こういうのは心臓に悪い。「腸の一部が狭くなっています」と言う。担当医に情報を回すのでそちらからの指示を待つように、と言われ病室へ戻った。

 

病室のベッドに横になっているとM女医がやってきた。腸の一部が狭くなっている原因を調べるために、明日予定されていた手術を延期して、代わりに大腸内視鏡検査をやると言う。とんとん拍子には行かないものだ。

 

これでまた開腹手術になると嫌だなあ、社会復帰はいつできるのかなあ、等と心配をしている間に、その夜は寝入ってしまった。

冬の散歩道

今週ストーマ人工肛門)閉鎖の手術がある。まずは切除した直腸部位がちゃんと接合されているかどうかの検査があって、問題無ければその翌日には手術だ。難しい手術では無く、入院期間は一週間程度だと言われた。
 
これが終われば癌治療の一つのプロセスが完了する事になる。とても嬉しい。でも、よりによってこんなタイミングで軽い風邪をひいてしまった。手術に差支えが無ければ良いが。
 
風邪を引いたのは、この数日寒かったせいだろう。でも、天気は良くて、おかげで犬の散歩は快適だった。ちょっと前までは雨続きで、どこに行ってもぬかるみばかりだったのだ。子供の頃には楽しかったぬかるみも今ではちっとも楽しくない。ゴム長を履いていてもだ。
 
我が家の犬たちとってはぬかるみなんてどうでも良くて、散歩に出ることが純粋な楽しみらしい。「散歩に行くよ」と言うと、若いエミーははしゃぎまくる。年長のモナは落ち着いたものだが、喜んでいるのは判る。そして、天気が良いと私も嬉しくて、散歩中に写真を撮ったりする。
 
 
住宅街コース。最近の散歩の定番。
右側に墓地があるのだが、墓地に面した芝生に犬の糞を放置する人が結構いて頭にくる。第一に死者に失礼だろうし、第二にそんな事をされると真面目に糞を片付ける飼い主だってまとめて糾弾されかねないからだ。
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「トラクター追い越し可」のサイン。
うちの周りは畑が多いので、トラクターも良く走ってる。
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このところ朝方はあちこち凍ってた。犬たちは一向に気にしないけど。
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夕陽と線路。
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夕焼けのイベント施設。車でちょっと走ったところにある気持ちの良い散歩コース。
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おまけ① モナ近影。
最近あちこちに毛玉が出来て大変。モナ自体が大きな毛玉みたいなものだが。
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おまけ② エミー近影
モナとは異父姉妹なのだが、性格も色も毛質も全然違うのが面白い。
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以上

癌の予防(2)

癌の予防(1)の続き。今回は食生活に関して。

 

国立がん研究センターが発行している小冊子『科学的根拠に基づくがん予防』

に書いてある食生活の改善項目は下記の三つ。

  • 減塩する:胃癌リスクを下げる
  • 果物と野菜を多く食べる:食道癌、胃癌、肺癌リスクを下げる
  • 熱い飲み物や食べ物は冷ましてから:食道癌リスクを下げる

 

私は直腸癌になったので、そのあたりをもう少し詳しく知りたいと思い調べたら『食物、栄養、身体活動とがん予防:世界的展望(2007年版)』という資料が見つかった。世界がん研究基金/米国がん研究機構の研究成果を九大の廣畑氏が要約・日本語訳したもので、各種癌への食物・生活習慣の影響度をまとめたマトリックスがある。

 

それによると、直腸・大腸癌について「リスク増加が確定的」な食物は以下。

①肉類(牛、豚、羊など。鶏肉を除く)

②加工肉(塩、燻製、化学防腐剤などで、保存加工されたもの)

 

我が家では野菜好きの妻が主に料理をするので、私の食生活は肉食に偏っているわけでは無い。しかし、ハム、ソーセージなど加工肉の消費量は日本に居た時と比べて間違いなく増えただろう。ドイツの加工肉は美味しい上に種類も豊富なのだ。

 

同資料では肉食について、このように勧告している。

肉の摂取を週に500g以下とし、加工した肉は出来るだけ食べないようにする。

 

週に500gとは結構な量だ。今までだってそんなに食べていないので、あまり参考にならない。個人的方針として、今後はもっと野菜を食べる。牛肉や豚肉は月に1-2食とし、それ以外は鶏肉にする。(本来ならばもっと魚を食べたいところだが、私が住む地域では品揃えは薄いし値段も高い)

 

そして加工肉は避ける。だが...たまにはいいだろう。網の上でじゅうじゅう言う焼きソーセージ、それにカレーソースをかけたカリー・ヴルスト、齧るとプリっとした歯ごたえで応える茹でソーセージ。永遠の別れを告げるなんて無理な話だ。

 

ドイツで聞いたジョークに『100歳まで生きたい男』というのがある。

男「私は健康を追及して生きていますが、100歳まで生きられますでしょうか? 」

医者「そうですねえ。あなた、煙草を吸いますか?」

男「一本だって吸ったことはありません」

医者「お酒は?」

男「まさか!一滴たりとも飲みませんよ」

医者「では、セックスは?」

男「セックス?とんでもない!」

医者「うーん、あなたはどうして100歳まで生きたいんです?」

 

ここでの煙草や酒やセックスは「楽しみ」つまり「生きる喜び」の象徴だ。生きる喜びは人それぞれだろうが、私にとって「食」はその中でも重要なものの一つだ。だから私は摂生はしても好きな食べ物を完全に断つ事はないだろう。

 

癌にはなりたくない。だが、癌を恐れるあまりに生きる喜びを捨て去ってしまっては本末転倒ではないか。と、やや自己弁護的に私は考えるのである。

 

癌の予防(1)

直腸と肝臓の癌は無事切除されたわけだが、これにてお終いハッピーエンドと能天気に構えてもいられない。肝臓に転移したという事は、直腸で成長した癌細胞が体内のあちこちに遠征に出たという事であり、今後の転移・再発の可能性は高いと考えられるからだ。

 

医師の中川恵一氏は『がんの練習帳』の中で、転移した癌を部屋の窓から外に出て行ってしまった鳥になぞらえている。「捕まえるのは極めて難しい」、つまり完治はほぼ不可能だと。

 

だからと言って絶望して泣き暮らすというのもアホな話だ。転移・再発を防ぐためにやれる事はあるだろう。国立がん研究センターが発行している小冊子『科学的根拠に基づくがん予防』には、癌予防のための5項目の健康習慣が提示されている。

 

①禁煙する
男性の場合、喫煙は癌の要因のトップである

②節酒する
一日の飲酒量の目安は日本酒なら一合以下、ビールなら大瓶一本(633ml)以下に
③食生活を見直す
減塩する、果物と野菜を多く食べる、熱い飲み物や食べ物は冷ましてから
④体を動かす
30分以上の運動を少なくとも週に二日は行う
⑤適正体重を維持する
男性はBMI値21-27、女性は21-25が望ましい。[BMI=体重kg÷(身長mx身長m)]

 

つまり健康的な生活を送ることで健康な体になり癌が予防される。そして癌が予防されることにより健康な生活が送れるわけだ。目的と手段の一致である。そして生活習慣の改善とは、言うは易し行うは難し、である。かなりの意思の力が要るだろう。

 

さて、自分が居た状況を振り返りつつ、今後の方針を立ててみよう。

①煙草に関して言えば、去年の春に酷い気管支炎にかかってから止めてしまった。もともとここ数年は日常的に喫煙していたわけでは無く、飲み会などイベントでの喫煙が主だったのだ。酒を飲みつつ友人や同僚とわいわいやりながら吸う煙草は大変美味しいのだが、この際すっぱりあきらめる事にしよう。

②ビールが好きで毎晩350mlの小瓶を飲んでいた時期もあった。だが、もともと酒に弱く飲酒量は少ないので節酒自体は問題無く達成できるだろう。

④3年前に犬を飼い始めてからは散歩でほぼ毎日30分は歩いているが、それ以前の数年間は明らかに運動不足だった。日本と同様にドイツの郊外も車社会である。どこに行くにも車で、歩く機会が少なかったし、そもそも私はスポーツを好むタイプでは無い。しかし体調が元に戻れば、散歩以外にもウォーキングなどで運動量を上げようと思う。

⑤癌になる前は理想体重より2-3kgオーバーしていたもののBMIは正常範囲。手術後は体重が減り、やせ気味になってしまったので、もう少し体重を上げる必要がありそうだ。体調が戻り運動量が増えれば、筋肉もつき体重はすぐにでも戻るだろう。

 

③の食生活に関しては長くなるので「癌の予防(2)」に書く。

開店休業かと思いきや

注:今回もシモの話です。自己責任でどうぞ。

 

私は回腸ストーマ人工肛門)保有者だが、大腸も肛門も温存・開通している。それでも排便はストーマを通して行われるので、肛門は開店休業状態になるものとばかり思っていた。だが実際にはそんな事は無く、そこからいろんなものが出てくる。

 

  • 粘液

お尻から粘液が出る。大腸はやるべき仕事が無くとも健気に新陳代謝をしており老廃物を出すのだ。そんな事は知らなかったから、手術後お尻から何か出てきた時には腸に問題でも起こったかと心配した。

 

医者に相談すると、「ああ、問題ありませんよ」と言う。出て当然のものらしい。なら、あらかじめ言ってくれ。

 

厄介なのは体調が回復するにつれて粘液が多く出るようになってきたことだ。そして何かの拍子に、ちょろっとお尻から漏れてしまう。ストーマにして以来、肛門の奴は仕事の手を抜いているのだ。実際のところ使わないと括約筋が弱くなるらしい。かつては鉄壁の肛門を誇った私でもこうなると駄目だ。漏れてもいいように妻のパンティライナーを装着するようになった。

 

作家の筒井康隆は切れ痔からの出血を抑えるために肛門にタンポンを入れていた事を面白おかしく書いていた。当時はげらげら笑って読んでいたものだが、今となってはこのエピソードに共感を感じずにはいられない。

 

  • おなら

おならだって出る。それは大気を震わすものでは無く、金魚の吐くあぶくのように頼りないものだが、「元気でやってます」という腸からの便りに違いない。

 

  • ホッチキスの針

こんなものがお尻から出てきて驚かない人はいないだろう。看護婦さんに相談したら、「問題ありませんよ」との事。あらかじめ言ってくれ。心臓に悪い。

 

実は腸を吻合する際に医療用ホッチキスが使われるらしい。その技術が確立したおかげで、直腸癌でも多くの場合で肛門を温存できるようになったのだそうだ。そのホッチキスの針が外れて肛門から出てくることは、ままあるとの事。では残りのホッチキス針はどうなるかというと一生体の中に残ると言う。それはそれでちょっと不気味なのだが。

 

以上。ストーマ予定者の参考になれば幸いなり。

ストーマについて

注:シモの話です。自己責任でどうぞ。

 

ストーマ人工肛門)を造設してから2か月になる。ストーマとの暮らしにだいぶ慣れてきたものの、やはり手間はかかる。私のような回腸ストーマだと便は大腸の手前で出てくるので、水分が絞り切れていない水様・泥状の便となる。お腹についたパウチ(便をためる袋)は数時間でいっぱいになり、一日に6-7回はトイレに行くはめになる。

 

ストーマ装具としては、まず面板というのをストーマ周囲の腹部に貼り付けて、そこにパウチを固定する。この面板はがっちりとお腹に粘着するので(これが緩かったら便が漏れて大参事だから当然なのだが)、私としては一日中気になってしょうがない。そして、常に面板が粘着している部位の皮膚はただれたりもするので、なかなかに厄介だ。

 

服装だってちょっと困る。パウチが邪魔で体にフィットした服が着れない。

 

まあ、このような問題はあるものの、ストーマ保有者になってみて、私のストーマについての認識は変わった。以前はストーマにすると普通の生活は送れなくなると考え、そうなることを非常に恐れた。しかし、実際にはストーマは頻便の辛さや失禁の恐怖に直面している人を救ってくれる。トイレの支配から解放され、心配せずに外出できるようになるのだから。つまりストーマは普通の生活を送る助けになるのだ。

 

関連記事:『トイレまでの距離』

 

私のストーマは暫定的なもので近いうちに閉じる予定であるが、何かの事情で永久的ストーマになることがあったとしても、以前のように絶望することは無いだろう。

 

手術前に私がストーマについて心配していた事と、その実際を書いておく。

ストーマを予定している人の参考になれば嬉しい。

  • 臭い

パウチには消臭剤がついているので臭いが漏れ出る事は無い。ただし毎日パウチを交換する必要はある。

ストーマは腸であり括約筋が無い。そのため便もガスもところ構わず出る。ガスが出るとおならとして周囲にも聞こえるという人もいるが、自分のものを聞く限りでは、お腹がごろごろいう音が大きくなった程度である。ガスはパウチに出て臭いもしないので、心配せずとも大丈夫。

  • シャワー・風呂

ストーマ装具は防水加工されているのでシャワーを浴びても問題は無い。まだ湯船につかった事はないが、ネットで見る限り、注意すればなんとかなるようだ。

今のところ全く問題無し。ただし、満員電車や肉体労働だとリスクはあるかもしれぬ。

 

以上

猫背

手術からもうじき二か月が経つ。手術直後は体のあちこちが痛んだものだが、いくつかの痛みは今やだいぶ落ち着いた。しかし、なかなか消え去ってはくれない痛みがある。腹部の手術跡の痛みだ。

 

痛み自体はさほど酷くは無いのだが頻度が高いのだ。よくピリピリと痛む。また、かがんだ後に背筋を伸ばしたりすると引き攣るような痛みが走る。それでどうしても腹部をかばう形で猫背になってしまう。猫は猫背でも優雅に見えるが、人の猫背は見た目の良いものではない。困ったものだ。

 

これは猫背小僧。

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入院中に看護婦さんに教えてもらった方法「お腹の痛い部分に手を当ててゆっくり背筋を伸ばす」というのはそれなりに有効なのだが、歩行中にこれをやると腹痛かなんかでよろめき倒れる寸前の人に見えるらしい。

なかなか難しいものだ。