蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

回復

手術から三日目。

相部屋のBさんが退院して、この日から一人部屋となった。体調的には相変わらずで、ベッドのへりに座るのがやっとという状態。初めて固形食が与えられた。マッシュポテトと人参。頑張って食べたが、どうにも食欲が湧かない。ああ、お粥が食べたいなあと思った。梅干しと食べたらさぞ美味かろうにと考えたら切なくなった。

 

手術から四日目。

吐き気はどんどんひどくなり、ついに吐いた。それは唐突にやってきたのだが、手近にあったポリ袋を素早くひっつかんだので、周りを汚さずに済んだ。げえげえ吐きながら、我ながらやるじゃないか、と自画自賛していた。

食欲は皆無で、パンやらパスタやら出されるのだが、デザートのプリンやヨーグルトくらいしか、のどを通らない。梅粥の欲求は高まるばかりだが、ここでそれが出されることは無い。海外で入院するとこのような辛さもある。

 

手術から五日目。

リハビリを担当している部署から、ある看護婦さんがやってきた。治りの遅い私を心配しての事らしい。まずは立ちましょうと言われる。ベッドのヘリに座ると、やはりめまいがする。それから看護婦さんに支えてもらい、手術後初めて立った。

自分の体がこんなに重いとは知らなかった。それも腹部の手術跡がひきつるように痛むので体が伸ばせない。酷い猫背だ。それでも立てたことは素直に嬉しかった。鬱々としていた心に勇気が湧いてきた。

 

それで、その場で足踏みを10回ほどやってみた。少しでも筋肉を使わなくては、と思ったのだ。看護婦さんはそれを見て「あなたはファイターですね」と微笑んだ。

女性からそう言われて、悪い気がする男がいるだろうか?

そして、その日を境に私は回復の道を歩む事になる。