回復
手術から三日目。
相部屋のBさんが退院して、この日から一人部屋となった。体調的には相変わらずで、ベッドのへりに座るのがやっとという状態。初めて固形食が与えられた。マッシュポテトと人参。頑張って食べたが、どうにも食欲が湧かない。ああ、お粥が食べたいなあと思った。梅干しと食べたらさぞ美味かろうにと考えたら切なくなった。
手術から四日目。
吐き気はどんどんひどくなり、ついに吐いた。それは唐突にやってきたのだが、手近にあったポリ袋を素早くひっつかんだので、周りを汚さずに済んだ。げえげえ吐きながら、我ながらやるじゃないか、と自画自賛していた。
食欲は皆無で、パンやらパスタやら出されるのだが、デザートのプリンやヨーグルトくらいしか、のどを通らない。梅粥の欲求は高まるばかりだが、ここでそれが出されることは無い。海外で入院するとこのような辛さもある。
手術から五日目。
リハビリを担当している部署から、ある看護婦さんがやってきた。治りの遅い私を心配しての事らしい。まずは立ちましょうと言われる。ベッドのヘリに座ると、やはりめまいがする。それから看護婦さんに支えてもらい、手術後初めて立った。
自分の体がこんなに重いとは知らなかった。それも腹部の手術跡がひきつるように痛むので体が伸ばせない。酷い猫背だ。それでも立てたことは素直に嬉しかった。鬱々としていた心に勇気が湧いてきた。
それで、その場で足踏みを10回ほどやってみた。少しでも筋肉を使わなくては、と思ったのだ。看護婦さんはそれを見て「あなたはファイターですね」と微笑んだ。
女性からそう言われて、悪い気がする男がいるだろうか?
そして、その日を境に私は回復の道を歩む事になる。