蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

苦痛

手術の次の日。

 

ICU(集中治療室)にて目を覚ました。昨晩から私についている男性の看護師さんが歯磨き、歯ブラシ、タオルを持ってきてくれる。ベッドのへりに座るように言われ、彼の助けを得て体を起こしかけたが、腹部が痛む。しかし具体的にどこがどう痛むのか自分でもよく分からない。

 

とても座れそうにない旨を告げると、横になったままベッドの背を起こし、上半身を立てて歯を磨く事になった。体の上半身は濡れタオルを使って自分で拭う。その時に初めて、自分の腹部を見た。

 

腹の真ん中には巨大な絆創膏が貼られている。へその右側には大き目の袋が固定されている。後で分かったのだが、これがストーマ人工肛門)だった。そして左右の下腹部にはそれぞれ小さな袋が取り付けられている。ドレナージという体液を排出するためのものらしい。膀胱のあたりからはカテーテルが出ている。

 

これらのもので私のお腹はすっかり覆い尽くされていた。どこが痛いのかさっぱり分からないのもある意味しょうがない。何せあちこち傷だらけなのだ。もしかしたらすべてが痛いのかもしれない。

 

それでもベッドに横になっている限りは問題は無かった。それでICUから病室に戻された。相部屋のBさんは手術後2日くらいだが、かなり元気そうだった。おそらく開腹手術ではなかったのだろう。すでに歩き回っていた。その様子を私はうらやましく眺めた。

 

食欲は無いが、ヨーグルトやスープなどを頑張って食べる。食事が終わってしまえば、特にすることも無い。BさんはSFのテレビシリーズなどを好んで観ていたが、私にはどんな番組もつまらなかった。もともとテレビはほとんど見ないのだ。持参した本も読む気がしない。音楽を聴いてもつまらない。何もする気が起こらない。痛くて寝返りがうてない。熟睡することすらできない。時間は恐ろしくゆっくりと流れた。

 

苦痛だった。まだ入院生活は始まったばかりだという事を考えると絶望的な気持ちになった。この精神的な苦痛には麻酔も効かないのだ。