蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

意気地なし

手術を終えて二日目。11月も下旬に入った。

 

朝の検診でP医師がやってきて、どれどれとお腹の絆創膏をべろっと剥がした。そこには大ムカデがいた。無数のホッチキスできっちりと縫い付けられたそれは、胃のあたりからペニスの手前まで這っている。30センチ弱はあるだろう。思っていたよりも大きな、そして生々しい手術跡を見て私は動揺した。

 

P医師はその手術跡を見て上々だとコメントした。そして、できるだけ早く歩きはじめるようにと私に言った。歩かないと回復しないのだと言う。しかし、私はベッドのへりに座るのがやっとという体たらくだった。ちょっと座っただけで痛みとめまいに襲われる。歩くどころか、まだ立ててすらいないのだ。

 

それからストーマ人工肛門)・ケアのMさんがやってきた。彼女は週に3回、ストーマ患者の世話を見るために病院にやってくる。60歳前後と思われる女性で、お洒落で陽気な人だ。

 

彼女は私のストーマ装具の交換に来たのだ。私はベッドに横になっているだけだった。彼女は装具を外し、私のストーマがあらわになった。ストーマがどんなものか事前に知ってはいたが、自分のそれを見たのは初めてだった。まるで形の崩れた梅干しだ。それはお腹から飛び出た自分の腸の一部なのだ。

 

Mさんは私のストーマをガーゼで拭って綺麗にしてくれたのだが、その様子は怖くて直視出来なかった。触られると激痛が走るのではないかとドキドキした。なにせそれは内臓なのだ。ストーマは粘膜で口の中のそれと同じであり、触っても痛くないのだと彼女は説明した。頭では分かっていても、やはり私は目を背けずにはいられなかった。

 

手術直後と比べて手術跡の痛みが増したし、めまいがするうえに吐き気も出てきた。食欲はさっぱり無い。何もする気が起こらない。手術跡やストーマを見て動揺したせいか、何もかもが辛く思えてきた。

 

私はすっかり意気地を無くし、心の中でめそめそと泣いていた。