蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

亀の歩み

手術から六日目。

短時間ながら立つ。10秒程度か。夕方ごろに膀胱がいっぱいになっているような感じがあり、看護婦さんを呼ぶ。膀胱カテーテルから排尿しているのだが、チューブが詰まっているとの事。膀胱炎で尿に粒状の不純物が混ざっている。それが原因らしい。チューブから生理食塩水を膀胱に出し入れして詰まりを解消したが、終わった後はぐったり。

 

手術から七日目。

30秒ほど立つ事が出来た。足踏みもした。しかしそれだけで足ががくがくする。筋肉の衰えは物凄い速さで進行しているようだ。もう少し立つ回数を増やしたいのだが、ベッドから一人で身を起こせない。看護婦さんの助けが要る。開腹手術直後で腹筋に負担をかけてはいけないので、ベッドから起きるのも大仕事なのだ。かといって忙しい看護婦さんを頻繁に呼び出すのも気が引ける。

 

この日は家族がお見舞いに来た。息子は亀のおもちゃをプレゼントしてくれた。亀の歩みで回復している私にはふさわしいかもしれない。

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手術から八日目。

硬膜外麻酔という言うのか、今まで背中に挿していた麻酔針を外した。少し自由になった気がする。しかし、まだいろんなものが私の体にはつながっている。膀胱カテーテルからの尿バッグ、ストーマからの排泄物バッグ、首には点滴が二本。医師は早く歩けというが、これだけのものを抱えて歩くというのは、なかなかにハードルが高いと考えていた。もちろん看護婦さんに頼めばこれらのものを一時的に外してもらえたはずで、遠慮せずにお願いすべきだったのかもしれない。

 

この頃になると食欲は少しずつ出始めて、固形食のパンやチーズも食べれるようになってきた。たまに出る果物はどれも美味しかった。水分たっぷりの洋梨を食べた時は感動すらした。また、きゅうりのピクルスの酸味は梅粥を夢想する私をある程度慰めてくれた。

 

私はもう心のなかでめそめそと泣いたりなんてしていなかった。一番辛い時期は脱したのだと言う実感があった。