蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

手術の日

11月中旬の水曜日。

その日は6時半に目が覚めた。7時すぎに男性の看護師さんが手術時に着るべきものを持ってきたので、それに着替える。それからすぐに看護婦さんがやってきて浣腸。午前中の手術なので慌ただしい。腸が空っぽになった頃にベッドごと、麻酔医たちが詰めている準備室のようなところに運ばれた。

 

特に不安などなく、落ち着いていたつもりだが、そこでの事はなぜかほとんど覚えていない。腕から麻酔を打たれたような記憶があるのだが、非常におぼろげだ。そして、目を覚ますと手術は終わっていた。

 

私のそばには妻が居た。そこはICU(集中治療室)だった。妻は涙ぐんで、手術の成功を告げた。麻酔のせいか、まだぼおっとしていたが、妻の言う事は十分理解できた。妻はすでに執刀医のM女医と話しており、いくつかの情報を得ていた。

 

①やはり大腸癌は縮小していた(もちろん、その部位は切除された)

②そのおかげで肛門は温存できた

③肝臓にも小さな癌が見つかったので、これも切除した

 

肛門が温存できたのは大きな喜びだった。

しかし肝臓の件は複雑だ。私の担当医であるM女医は癌の進行度を示すステージという言葉を私に対して一切使わなかった。しかしTNM分類から私のステージが3であることを私は知っていた。その上転移があったとなると実はステージ4だったという事だ。これは最終ステージであり、転移再発のリスクが非常に高い。

 

もっとも、これがこの世の終わりでないことも私は知っている。それから生き延びる人だって沢山いる。

 

この手術のおかげで肝臓癌が見つかり切除できたことに、素直に感謝することにした。大腸の手術の直後に、肝臓にも見つかりましたので再手術です、なんて言われたらさすがにめげていただろう。将来の再発や転移の事は今心配したって始まらない。癌は一日にして成らず。これからは早期発見に努めれば良いはずだ。

 

一通り話し終えたら眠気が来た。妻も家に帰るというので眠ることにした。今夜はこのICUで過ごすのだ。麻酔でラリっているせいか、目を閉じた途端に夢が始まる。それならば多少ぶっ飛んだハイな夢を見たってよさそうなものだが、私の見る夢は特に面白みの無い、日常の一コマと言ったものばかりだった。その上眠りは浅く、頻繁に目が覚める。夢と現実世界を何度も行き来するのは結構疲れるものだ。

 

このようにして手術の日は終わった。