蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

男たちの沈黙

検査入院三日目。いよいよ最終日。

これまでは気楽な一人部屋状態だったのだが、午前二時に私の部屋に患者が担ぎ込まれてきた。20歳半ばのドイツ人青年。看護婦さんが彼の脈を撮ったり、点滴をセットしたりと慌ただしい中、その新入りとは軽く挨拶だけ交わして寝入った。

 

朝になり彼と少し話をする。結石か何か知らないが、急な痛みを感じて病院に駆け込んだそうだ。あなたはどうして入院しているのか、と訊かれたので、大腸癌なんです、と答えると、彼は一瞬言葉に詰まった。癌という響きは人を戸惑わせる。今回は検査入院でなので詳細が分かるのはこれからなんですよ、と私が続けると、結果が良好であるといいですね、と彼は結んだ。会話が落ち着くところに落ち着いて、お互いほっとしたと思う。

 

その日の私の検査プログラムは腹部のMRIだけだ。これが終われば家に帰れるのだが、なかなか検査に呼ばれない。その間、私と相部屋の彼は特に会話をするでもなく、それぞれ本を読んだり、携帯電話をいじったりしていた。とても静かだった。

 

 そんな中、彼のガールフレンドがお見舞いにやってきた。最初は彼と二人だけで話をしていたが、いつか私も話の輪の中に入っていた。会話をリードしていたのは彼女だ。瞬く間にお互いの名前、職種、居住地域に関する情報交換がなされ、彼女が熱心なApple信者という事まで分かった。

 

つくづく女性のコミュニケーション能力は大したものだと思う。もちろん個人差はあるので、傾向的に、という意味で。私の観測範囲ではドイツ人、日本人に関わらず、他人と同席した場合、男性はコミュニケーションを恐れ、女性は沈黙を恐れるように見える。これももちろん、あくまで傾向的な話。

 

それから私の妻が見舞いに現れてからは、我々の病室は一層賑やかになった。しまいにはお見舞いの主役とも言うべきドイツ人の彼と私の存在は脇に追いやられ、そのガールフレンドと私の妻の間で会話は盛り上がった。これは一体なんだ。

 

そんな中、ようやくMRI検査の呼び出しがあった。今回は腹部を重点的に検査したのだが、前日のような問題は無く、よって加藤茶の出番も無かった。Z医師がやってきて、近日シンチグラムの検査を行ってから、最終的に治療プランを決定すると言う。ただ、今わかっている範囲では転移は見つかっていないと言われてほっとする。

 

その日の夕方にようやく退院。我が家へと。子供達と飼い犬の出迎えが嬉しい。遠いところに住む義母も援護に駆けつけてくれた。私も妻もドイツに血縁のものは居ない。私と妻が病院に居る間に子供達の世話を頼める人もそういるわけでないので、義母が来てくれて助かった。

 

検査入院を終えて一息ついたものの、お尻の痛み、正確には腸内の癌患部の痛みが大腸内視鏡検査以来、急激に酷くなってきていたのが気がかりではあった。痛みのチャートで言うとレベル5くらいか。そして、それはまだまだこれから上がっていくのであった。

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*上の図の作者は不明なので、リンク元だけ書いておきます。ココ