蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

さくらさくら

検査入院初日。朝9時に病院に到着し、入院棟へ。

「二人部屋に、今のところあなた一人だけですよ。ついてますね」と看護婦さん。

 

今日の検査プログラムは採血、超音波、CTとの事。採血はあっさり終わったが、超音波とCTはいつ呼び出されるか分からない。だから外をうろちょろするわけにもいかず、ベッドで暇をつぶすことになる。

 

待ちくたびれた頃に超音波検査の呼び出し。ジェルを塗ったプローブでお腹をぐりぐりされる。「腎臓にZysteが見られます」と医者が言う。Zysteって何だ?と一瞬焦ったが、「しかし、問題無さそうです」続けた。後で調べたらZysteとは日本語で『嚢胞(のうほう)』と言うらしい。聞いたことも無い。医者が日本語で説明したとしても理解不能であった。

 

病室に戻ると、すぐにCTに行ってくださいと言われた。CTは初体験だが、横になっているだけの検査である。検査室も静かなため、ほとんど寝入ってしまいそうになった。

 

検査後に遅めの昼食。鳥の胸肉に米。いかにも病院食で、美味くは無い。ご飯を食べてしまったら、本格的に暇になってしまった。ちょっと散歩に出ても院外に出るわけにはいかないので、あっという間に終わってしまう。本を読んでも、iPhoneで暇つぶしをしても、病室だとそれほど楽しいものでもなく、初日にして時間を持て余してしまった。

 

6時にはもう晩御飯の時間だ。パンとハムとチーズをぼそぼそと食う。そのあとに妻と娘が見舞いに来てくれた。早くも家に帰りたいと思う。

 

夜の10時くらいに見回りの看護婦さんがやってきた。50歳半ばの穏やかで陽気そうなドイツ人のおばさんだ。「あなたはどこの出身なんですか?」と訊いてくる。日本だと答えると、「じゃあ、これ知ってますか?」と、童謡の『さくらさくら』をそらんじ始めた。

 

夜の病室で聴く、ドイツ語訛りの『さくらさくら』は、奇妙なおかしみでもって入院初日を締めくくってくれた。