蟹退治日記 (神経内分泌がん治療記)

ドイツでの神経内分泌がん治療の日々を通して見たこと聞いたこと考えたことを綴っていきます。

約束

  • 入院七日目

典型的な病院の朝ご飯。これにチーズがついたりハムがついたりもする。夕ご飯もほぼ一緒で、暖かい食事が出るのはお昼のみ。

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天気が良い日が続く。病院の外もぶらつきたいのだが、不意に便意に襲われるのが怖い。念のため下着の中にパッド(大きな生理用ナプキンのようなもの)を入れてはいるが、それはあくまで失禁時のダメージを防ぐものだ。失禁自体を避けたい私は、トイレからは遠く離れられない。また、トイレの支配下だなあ、と憂鬱になる。

 

その日は夕方に集中的にトイレに駆け込むことになった。用を足して手を洗っていると急な便意でまた便座に逆戻り、という感じ。肛門の痛みが辛いので、看護婦さんから軟膏を貰ったが、たいして楽にはならない。

 

  • 入院八日目:退院

朝の回診で、本日退院して良しと言われた。ネットで調べる限り日本でのストーマ閉鎖手術の入院日数は2週間が目安らしい。それと比較するとスピード退院だ。ありがたい。いそいそと荷物を詰めて、お昼には家へと帰った。

 

犬たちの熱い歓迎を受けて、家族みんなでご飯を食べて人心地つく。病室でごろごろしても面白くもなんともないが、家だと心地よくごろごろ出来る。いくらでも。回復にもはずみがつくに違いない。

 

ソファで横になっていたら、米国人の同僚から電話が入った。彼とは奇妙な縁がある。20年以上前の話だが、日本で一緒に働いていた事がある。それから彼はアメリカに戻り転職し、私はドイツに移り転職し、結果的に前とは違う会社でまた一緒に(それぞれ米・欧の現地法人で)働いている。世界は狭い。単に我々のいる市場が狭いだけなのかもしれないが。

 

彼は思い詰めた声で、先日癌宣告されたことを私に伝えた。まだ詳細な検査は進行中だが、あと何年の命かと考えると夜も眠れないと言う。妻以外に癌の事は打ち明けていないとの事で、誰か話す相手が欲しかったのだろう。聞いてあげるだけで、楽になるようだった。実際のところ私にアドバイスできることなんて無いのだが。

 

最後はお互いを励まし、幸運を祈りあった。ここでも「今度、一緒にご飯を食べような」と約束する。アメリカかドイツか日本か知らないが、どこでもいい。それも5年後には「あの頃は大変だったな」と笑いあおうという事になった。ぜひとも実現させなければならない。